こんにちは、Moccoです。
2020年大学入試改革というトピックのインパクトが強く各高等学校がそれぞれのレベルで対応を進めていますね。しかし、いよいよ学習指導要領の改訂に伴う移行措置として、2019年より「探究」が始まりました。導入の経緯、内容などを整理してみます。
高校の新科目「総合的な探究の時間」
2019年度入学の高校1年生から「総合的な探究の時間 」という名の科目に取り組むことになったのをご存知でしょうか? 学習指導要領の改訂によって、これまで「総合的な学習の時間」として実施されてきた科目が「総合的な探究の時間」に変更され、新指導要領の移行措置として取り組みが始まりました。
「総合的な学習の時間」が探究重視になったワケ
そもそも「総合的な学習の時間」は、既存の枠組みにとらわれない自由度の高い時間で、教科学習で身につける力と実社会で求められる力との橋渡しをする役割を担う時間として、小中高のそれぞれで段階的に取り入れられるようになっていました。
学習指導要領では、「横断的・総合的な学習や探究的な学習を通して、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育成するとともに、学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探究活動に主体的、創造的、協同的に取り組む態度を育て、自己の生き方を考えることができるようにする。」となっており、ここで表れた「探究的な学習」というキーワードが、今回の改訂では前面に出される形となりました。
先行事例に見る「探究」の実際
それでは、現在の学校現場の実際の状況はどうなのか。現場では探究はどのように行われ、どのような成果に結びついていくのでしょうか。
甲南高等学校・中学校の事例
甲南高等学校・中学校は、2018年12月15日に「甲南グローバルリサーチ・フェア」という研究発表会を実施しました。今年が初開催となるこの会には、「グローバル・スタディ・プログラム」という同校独自の教育課程を受ける中3から高2までの全生徒が参加しました。
生徒たちの研究テーマは実に多岐にわたっています。タイトルを見るだけでも非常にユニークです。
• 企業誘致がもたらす様々な影響 〜シャープの亀山工場から学ぶ〜
• 安全なまちづくりにおける防犯環境設計の研究
• ハードドラッグとソフトドラッグの違い 〜なぜ海外では大麻の合法化が進んでいるのか〜
• 映像時代にメディア教育が生み出すものとは
• 日本の中古電車は途上国に貢献できているのか
• 仮想通貨の成り立ちとその有用性
• 若年会社員に対し、定期的にカウンセリングをすることはうつや自殺の予防になるのか
• テレビ業界は本当に衰退しているのか
たとえば、「企業誘致がもたらす様々な影響」をテーマとして選んだ生徒は、企業誘致の失敗例として取りざたされることの多いシャープの亀山工場について調べ、それだけでなく、亀山市を訪れて市役所職員から話を聞いたともいう。すると、多くの報道ではシャープが撤退したことに起因して同市がゴーストタウン化してしまったと伝えられていたが、商店街の状況は撤退前後で変化があったわけではなく、そこに因果関係は認められなかったと発表した。
メディアからの情報を鵜呑みにせず、フィールドワークに繰り出して自分の目で確かめに行く。教科書に書かれていることから知識を得るような、天井のある勉強とは明らかに異なる学びが展開されている。「探究」は一人ひとりが独自のテーマを持つ研究者になることを意味しています。
探究を導入する効果
「探究」とは何か、またその意義や効果について取り組みを行っている高校の例から探ってみると
1. やらされる勉強から「やりたいこと」のための勉強へ
「探究」では、生徒たちは自ら課題を設定してリサーチを進めていく。自分の興味・関心が中心になるので、誰かに与えられたことをただ消化するような勉強にはならない。テーマを掘り下げていく中で、たとえば、歴史的事実の確認や海外の類似事例の調査など、自ら進んで学びの領域を広げ、深めていくことになる。自分の「やりたいこと」が真ん中にあるので、この勉強が苦になっている様子はない。実際、生徒たちから探究することは「おもしろい」「楽しい」といった声が多く聞かれたようだ。
また、このような研究テーマはいっときのものではない。方向性の合った大学・学部に進学すれば、入学後も一貫して続けることができる。これは偏差値による大学選びではない本来的な意味での進路選択を推進するという意味でも価値があると考えられる。
2. 日常生活の中でさまざまことに関心を向ける習慣
探究を行った生徒たちの多くは、テーマを決めるのに「さほど時間はかからなかった」と答えている。とはいえ、中にはしばらくの間、「課題設定ができずに悩んでしまった」という生徒もいたが、この生徒は、テーマがなかなか決まらないため、「いろんなことにアンテナをはるようになった」そうだ。ニュースを見たり、新聞に目を通したりするようにもなったが、最終的には、学校の政経の授業でたまたま習った内容に「これだ」と思ったという。
おそらく、意識していなければ通り過ぎていたに違いない。その意味では、この生徒の日常の過ごし方や学びに向かう姿勢を変えたとも言えるだろう。
3. 生徒の数だけ探究があるという相乗効果
探究における課題設定は個別的なものなので、実に多様なテーマの研究が行われることになる。生徒全員がそれぞれ独自の得意分野を持つことになるので、研究を進めていくうちにその分野の知見は学校内の誰よりも詳しくなっていく。
一人の研究発表を聴くことで、他の生徒たちは新たな知に触れることができ、それだけでもこれまでにない学びを得ることができる。一人ひとりの探究がいっそう充実していけば、たとえば「仮想通貨のことなら〇〇くんに聞こう」など、生徒同士の学び合いを促進していくかもしれない。決められたことを教わるという従来の学校の枠組みを超えて、学びの可能性を大きく広げていくことになる。
授業運営はどうすれば良いのか
一方、探究を推進すればするほど、ありとあらゆる方向性の研究が行われることになるので、教員は知識を教えることはできなくなっていきます。リサーチの進め方や発表のまとめ方等については指導が行われますが、研究プロセスにおいては、教員は「先生」ではなく「アドバイザーやコーチ」の役割を担うことになります。
教員は知識を与える立場ではなく、研究の伴走者になる。ここで知識を押し付けるようなことをすれば、研究の個性が失われることにもなりかねない。しかし、独りよがりの研究でも意味がない。この点、教員の生徒への関わり方は非常に重要だと言えるでしょう。
「総合的な探究の時間」が施行される前から探究を行っている学校はまだ少数のようです。2019年からはこのような取組が全国に広がっていきます。その価値は大きいですが、「探究」は2〜6単位となっていますので、各学校ではどのような「探究」プログラムを設定するか、取り組みに大きな差が出るのではと思われます。まずは、地域の高校の取り組みを見守っていきましょう。